2.薬剤やサプリメントを使用する

生活習慣が極端に乱れている場合や、光をコントロールしにくい場合(残業が続いてしまったり、部屋の日当たりが悪かったり)、あるいはもともとの体内時計が通常の人とは大きくずれてしまっている場合には、薬やサプリの助けが必要になる場合があります。

眠りとリズムのホルモン:メラトニン

体の中にはメラトニンというホルモンがあります。これは脳の中の「松果体」というところから分泌されるのですが、光が当たっているとほとんど分泌されず、夜がきて暗くなるとたくさん分泌され、体全体に「夜が来たよ」と教える役割を持っています。

図:メラトニンの分泌リズム…夜にたくさん出て、昼にはほとんど出ません

メラトニンのリズム

このメラトニンが分泌され始める時間を「DLMO:デルモ」と言い、体の中では(主観的な)夜が何時に来たのかを示す大事な指標です。DLMOは通常は19~20時なのですが、夜まで仕事をしていたり、明るい場所にいたりすると、分泌される時間がどんどん遅くなってしまい、体はいつまでたっても「まだ夜が来ていない」と勘違いして、睡眠相後退症候群(DSPS)のような状態を引き起こします。

あるいは、眼が全く見えなかったりすると、このメラトニンの1日の中のリズムが作れなくなって、体はいつが夜でいつが昼なのか分からなくなってしまいます。

なお、メラトニンはそれ以外にも、抗酸化作用などに関わっていると言われていて、アメリカなどではサプリメントとして幅広く売られています。

口からとることができるメラトニン

メラトニンは口から飲むとそのまま体内に入れることができるという性質があります。また、日本では2010年からメラトニンと同じような働きをする処方薬が発売されています。これらの薬やメラトニンそのものを飲むことで、体に「夜が来たよ」と強く教えることができます。

リズム障害の治療には、少しだけの量を、20時くらいにまず飲み始めます

メラトニンは体の中には「pg/mL」という本当にわずかな量だけが存在しています。pg(ピコグラム)とは1兆分の1グラムというものすごい微量の単位です。このため、多すぎる量を飲んでしまうと体のリズムが逆に混乱してしまうので、少しの量を飲みます。

具体的には0.1~1.0mgのメラトニンを、最初は20時に飲みます。これは普通の人のメラトニンが分泌され始める時間(DLMO)と同じくらいの時間です。タイムリリースという、ゆっくり体の中に放出されるタイプの薬剤だと、より自然な調整ができるかもしれません。メラトニンの飲み始めの数日は、服用後眠気やだるさが出ることがあります。なお、1mgを超えるような多い量を飲むと、眠気が強く出てしまいます(5-10mg以上のメラトニンは多すぎます。眠気が出るだけでなく、朝にまで若干持ち越してしまい、逆にリズム調整には悪影響が生じ場合があります)。眠気が生じるよりもはるかに少ない量でリズムは調整できますので、飲んだ直後に眠気が強くてつらい場合には、量を減らしましょう。

また、メラトニンと同じ働きをする処方薬として、日本ではロゼレム(8mg)という薬があります。この薬はメラトニンに比べて非常に効果が強いため、メラトニンと同様、20時に1/2(半錠)以下の量を使います。実際には1/8錠や1/14錠くらいが多いです。この薬も多すぎると眠気が強く出てしまうだけでなく、リズムに対して効果が弱くなってしまうので、医師によっては1/20や1/50錠など、さらに極めて少量を処方する人もいます。

なお、メラトニンにしても処方薬にしても、いくつか注意する点があります。1つ目は、「すぐに効かない」ということ。睡眠リズム障害は体が勝手に時差ボケを起こしているような状態ですが、時差ボケというのは完全に治るのに1週間以上を要します。このため、飲み始めの数日は「なんか眠い、だるい」という副作用が出るだけで、リズム自体はあまり改善しなかったりしますが、根気強く続けましょう。通常は飲み始めて2週間くらいすると効果が安定し始めます。

2つ目は、「飲み過ぎてはいけない」、「飲み過ぎると効かないどころか逆効果」ということ。メラトニン自体は半減期が少ないので問題になりにくいのですが、タイムリリースのメラトニンサプリや処方薬を飲み過ぎると、昼になっても体の中にメラトニンの作用が残ってしまうことになりかねず、逆にいつが夜でいつが昼か体がわかりにくくなってしまいます。なおメラトニンは非常に安全な物質で、通常量の1万倍飲んでも眠くなる以外に特に深刻な悪影響は起きませんが、上記の理由があるので、けしてOD(オーバードーズ・過量服薬)しないようにしましょう。

3つ目は、極力、「毎日同じ時間に飲む」ということ。ある日は19時、ある日は21時…という感じにずれてしまうと、体の中で小さな時差ボケが繰り返される感じになってしまい、リズムを安定させることが難しくなってしまいます。たとえばアラームを毎日同じ時間に鳴るようにセットしたりして、毎日同じ時間に服用できるように心がけましょう。

睡眠時間帯が安定してきたら、少しずつ飲む時間を調整していきます。

もしたとえば毎日20時にメラトニンや処方薬を飲んで、自らの望ましい時間に寝起きすることができるようになれば、そのままその時間を続けます。

一方で、「眠る時間が早くなりすぎた」という場合には21時に服用時間を遅くしたり、あるいは「もう少し早寝早起きがしたい」という場合には18時や19時に服用時間を早めたりします。この時注意することは、服用時間を一気に動かさない(たとえばいきなり20時から17時にしたりしない)ということと、動かしてから1~2週間はそのままの服用時間を維持して、効果が安定するのを待つということです。

睡眠日誌をつけましょう

何時に薬を飲み、何時に布団に入り、何時に寝付き、何時に起きたか、ということを記した記録を「睡眠日誌(Sleep Log)」と言います。これをつけることで、自分の体やリズムが薬などに対してどう反応したか、実際に睡眠時間帯にどういう問題があるのかがわかりやすくなるほか、睡眠を診察する医師にかかる場合、持参すると診察の上で大きな助けになります。

薬剤やサプリの入手方法

最後に、メラトニンや処方薬の入手方法についてお伝えします。

残念ながらリズム障害の治療ができる医師は日本国内にそれほど多くはいないのが実情です。ただし、薬剤自体は内科でも精神科でもどの医師でも処方が可能なので、上記の実情を話すか、このページなどを医師に見せた上で(※患者会では現在このためのパンフレットを作成中です)、「ロゼレムを処方して欲しい」と相談するのがよいと思います。医師の中には処方に口出しされるのを嫌がる人もいるため、その時には他の医師を頼りましょう。

また、メラトニンはアメリカ等に渡航した際に購入するか、個人輸入サイトを利用して個人輸入する方法があります。たとえば、ここのサイト(melatoninusa)の、1mg以下の商品を購入するという方法があります。純粋なメラトニンだけのサプリが望ましく、他にビタミンや何らかの精神作用物質などが混ざっている商品は避けたほうがよいでしょう。

医師の方向けの文書

下記のページにリズム障害を治療する際のロゼレム使用方法についてのお願い文書が掲載されています。ご参考にしてください。

ラメルテオン(ロゼレム)投与時の注意事項

医療機関において、ラメルテオン(ロゼレム)を使用してリズム障害患者の治療を試みる際のお願いについて、当会所属医師からの参考文書を下記に掲載致しました。   ロゼレ…

(2022.08.08追記)

本文書の内容が論文になりました。米国睡眠医学会の公式科学誌Journal of Clinical Sleep Medicine誌に、2022年8月5日に発表されました。

https://jcsm.aasm.org/doi/10.5664/jcsm.10188 (DOI: 10.5664/jcsm.10188 )

Shimura A, Kanno T, Inoue T. Ultra-low-dose early night ramelteon administration for the treatment of delayed sleep-wake phase disorder: case reports with a pharmacological review. J Clin Sleep Med. 2022 Aug 5.  PMID: 35929592.

◆監修:Aki(患者会メンバー医師:精神科/睡眠外来)

薬剤・サプリメントを使う” に対して6件のコメントがあります。

  1. 高橋智子 より:

    初めまして。睡眠リズム障害と診断された高校生の娘の母です。
    慢性疲労症候群という病気の症状の一つとして睡眠障害の治療を勧められ、その先生は遠方な為、地元のかかりつけの先生にロゼレムを処方していただきました。
    元々遠方の先生は8mgでは多いとの事だったので、4mgを先週の日曜日から服用し始めました。次の日、頭痛があったので、月曜日は4分の1の2mgにしてみました。このサイトを見つけたのが服用して三日目だったので、就寝前12時位に服用しました。
    こちらのサイトを見つけ、三日目、四日目は8時に2mgを飲んだのですが、五日目の今日、うっかりしていて9時半の服用になってしまいました。
    質問なんですが、これから極力時間を厳守したいとは思っているのですが、万が一今回みたいに時間を過ぎてしまった場合、遅れても飲むべきか、その日は飲まない方がいいのか教えて頂けませんか?
    処方して頂いている先生は睡眠の専門ではないので、質問しても難しかと思い、出来ればお答え頂ければ有り難いです。

    1. crsd_admin より:

      患者会医師の者です。
      詳細な事情がわからないので個別の患者様のことではなく一般論のコメントを記載させていただきます。
      ・メラトニンを使う際には”PRC”(Phase Response Curve)という、何時に服用するとどれだけリズムが変化するか、という、反応の仕方が知られています。
      大雑把に言えば、ふだんのメラトニンが出る時間より前に飲むとリズムは前に動き、だいぶ遅くに飲むと、逆に後退してしまいます。
      これを利用して、早い時間にメラトニンを飲むことでDSPSの治療をし、逆にASPSという早寝早起きすぎて困る病気の治療では、朝にメラトニンを飲むことがあります。

      ふだん飲んでいる時間より遅く飲んでしまうと時間帯によってはリズムを逆に遅くしてしまう可能性があり、特に、メラトニンそのものより半減期の長いロゼレムの場合には、そのリスクがさらに高まります。なのでとても遅くなってしまった場合には「飲まないほうがよい」場合がありえます。

      いっぽう21:30というのはそれほど遅くない時間でもありますが、リズム前進効果が強く期待できる時間でもないため「どちらでも良いのでは」と医師個人としては思います。

  2. 林新次 より:

    ロゼレムという薬を飲んだら昼まで眠気が取れませんでした。どう対応すればいいですか?

    1. crsd_admin より:

      単純に服用量を減らすのが良いかと思われます (患者会医師より)

  3. 青柳晴美 より:

    睡眠相後退症候群と診断された高校生の母です。ロゼルム8mgを8分の1錠服用して朝9時半頃目覚めるように回復して登校を再開し、1ヶ月半、そこで停滞、やや後退しはじめました。

    朝の倦怠感が強く、注意欠陥の症状も強いため、ストラテラを飲用し、少し楽なようですが、動き出すのに2時間を要します。
    この病気の治る過程も情報がなく、完治する人がいるのか、とても不安です。

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